第九計 岸を隔てて火を観る
「陽乖き序乱れ、陰以て逆らうを待つ。暴戻恣睢になれば、其の勢い自ら斃る。順いて動を以て豫り、豫て順いて以て動ず」「岸を隔てて火を観る」とは、敵軍の内部矛盾を利用して、敵軍が互いに殺戮し合うように仕向け、戦わないで勝利を勝ち取る計略である。単に「火」を静観するだけでなく、積極的に「火」をつけなければならない。すなわち、人を送って敵軍の内部に矛盾を生じさせるのである。
時代背景
本計の例話は、秦の昭王が、紀元前二六〇年趙将趙括を長平(山西省高平県=高平は洛陽の北方一二五キロ)に破り、四十万の兵を穴埋めにして趙都邯鄲を包囲した名将白起を罷免したときの裏の計略である。趙の策士蘇代が秦都咸陽に赴いて宰相・范雎を焚きつけて秦王を篭絡したからで、この蘇代の計略が隔岸観火である。人間の心に火をつけることの恐ろしさをまざまざと見せつけられる思いがする。
趙王、秦の中枢を乱し助かる
敵軍が内部分裂し秩序が混乱に陥ったときには、静観しつつ、敵軍の情勢が引き続き悪化するのを待つ。そうすれば、敵軍は横暴残忍になり、反目し合い、恨みのために殺し合い、自滅していく。敵軍の情勢の変化に合わせて準備を整え、絶好の機会をとらえて策謀し、座して漁夫の利を収める。