第一計 天を瞞 いて海を過 る
「備え周なれば則意怠り、常に見れば則ち疑わず、陰は陽の内に在り、陽の対に在らず。太だ陽なるは、太だ陰なり」 「瞞天過海」の「天」は皇帝のことで、全体で「皇帝をだまして平穏無事に大海を渡る」という意味になる。露呈されているものに秘計を隠し、見慣れていると少しも奇妙に思わない錯覚を巧みに利用して、軍事的な目的を実現することを言う。
時代背景
後漢の献帝が、「三国志」で名高い魏の曹操の子曹丕に帝位を奪われてから約四百年間、中国は南北朝に分裂していた。 この分裂状態に終止符を打って、中国を再統一したのが隋の楊堅(高祖文帝)である。
本計の例話は、この文帝が南朝の陳王朝の首都建康(現在の南京)を、名将「賀若弼」を使い長江を渡河させて占領し、陳の後主を捕らえて滅したときの計略である。
隋の「賀若弼 」の江渡河作戦
防備をしっかり固めているところでは、往々にして頭脳が麻痺する。ふだんから見慣れているものには。疑問を感じないことが多い。秘密は公然としているものに隠されており、秘密と公開は決して対立するものではない。