第二十九計 樹に花を咲かす
「局を借りて勢を布かば、力小にして勢大なり。鴻、逵に漸む、其の羽用て儀と為す可し」「樹に花を咲かす」とは、欺瞞的で狡猾な手段を借用し、大仰に騒ぎ立て、弱小な兵力を強大に見せかけ、敵軍を震撼させる作戦である。」
時代背景
秦が天下統一を達成したのは紀元前二二一年である。本計の例話にある田単の火牛の攻撃は前二七九年であるから、すでに秦の東方攻撃「天下皆西嚮(嚮は向うの意)」は始まっていたとみてよい。斉が燕将楽毅の指揮する諸侯軍に破れてから五年後、楽毅将軍は讒言を信じた燕の恵王によって失脚させられた。斉はすでに衰退し山東半島の方に押されていたが、この好機を生かして燕に攻め入ろうと、田単は策を講じて燕を油断させ、火牛を使って敵を圧倒したのであった。しかし秦の優勢はいかんともしがたく、秦はほこ先を魏から趙に向け、再転して楚を攻め、さらには周を滅ぼし、やがて楚、趙、韓、魏の連合軍をも撃破するのである。
田単、火牛を使い燕軍を撃つ
他軍の局面を借りて有利な陣形を作れば、兵力が弱小であっても、陣容を強大に見せることができる。鴻は天空に翔けて帰ってこないが、その落した羽は儀式の飾りにすることができるようなものだ。