第三十六計 走げるをもって上策となす
「全師、敵を避け、走ぐるを左くるは咎無し。未だ常を失わざるなり」「走げるをもって上策となす」とは、軍事的に劣勢にある場合は、主導的に撤退して兵力を温存し、機会をとらえて敵を打ち破る作戦である。」
時代背景
本計の例話の南北朝時代とは、三国時代に続く魏晋南北朝時代の四番目の時代で、漢が滅んでから、五八九年に随が陳を併せて天下を統一するまでの三百六十余年間における最後の対立時代である。つまりこの時代は、①三国時代、②西晋の統一時代、③東晋・五胡十六国が対立した時代、④南北朝時代である。しかし一口に南北朝時代といってもややこしい。江南では宋・斉・梁・陳が交替し、華北では北魏の統一を経て、東魏・北斉と西魏・北周が対立し、北周に統一され、隋に受け継がれるからである。例話の劉宋の文帝は、南朝の宋の劉氏三代めの文帝のことである。北魏は鮮卑族が華北に建てた王朝で、三代太武帝は華北を統一した。本計の例話は、その劉宋軍と北魏軍の戦いで、軍配は走為上の計で戦った北魏にあがる。
北魏軍、走為上の計で劉宋軍を破る
全軍が退却し、優勢な敵軍との戦闘を避けて戦力を温存し、機に乗じて敵軍を打ち破る。この退却を進撃とするやり方は、決して正常な用兵法に反するものではない。