兵法 三十六計

■三十六計「詭道」の集大成
■兵法としての「三十六計」
■兵法三十六計の「かたち」


  兵法としての「三十六計」

   

兵法としての「三十六計」

兵法の要は、集団を率いて勝利を獲得することにあり、「孫子」の主張するように「戦わずして勝つ」ことをもって最上とする。戦って勝つための鍵は我が優勢を以て敵の劣勢を撃つにあるが、この優勢はたんに有形の要素だけでなく、無形の要素によることが多い。たとえば不意を衝かれた軍はつねに劣勢である。 「三十六計」はいずれも奇策妙計であるが、他面ことごとく「児戯に類するもの」といえなくはなく、冷静にして英知をもった相手に施せば、たちまち見破られて、逆にこちらがしてやられそうなものばかりである。したがってこれを効果あるものにするには、その前に相手の心理状態を攪乱し、その判断力を弱めておく必要がある。 事実、不意に思いがけないことに当面した人間は心理の平衡を失し、後で考えると、とても理解できないような不可解な行動をとる。予期しない事実に当面すれば、誰でも心理の平衡を失して慌てる。これは人間である以上当然のことであり、無理しないで素直に慌てればよい。しかし速やかに立ち直らなくてはならない。沈着と狼狽との差は立ち直る時間の差だけであり、しかも、その時間は特別に短い必要はなく、普通でよい。禅で「平常心」というのも、こんな趣旨のものであろう。「普通でよい」ということは、我々の立ち直る時間が予想外に長いことを示すもので、ついに立ち直れないものさえあることを示唆している。流言飛語というものがある。いわゆるデマである。1923年の関東大震災のときには常識では考えられない噂が拡がり、大きな不幸をもたらした。これも心理の平衡を失した人間がいかに愚考をするものか、言い換えれば児戯に類する計略にひっかかるものであるかの例証である。「怒って人事を決してはならない」「人事は一晩、寝てから考えよ」などと言われているのも、このことを別の面から戒めたものである。いかに慎み深い人間でも、驚いたり怒ったりするとその本心を暴露する。「鬼谷子」が「一石を投じてみよ」と言い、交渉にあたっては、まず相手の心に衝撃を与えてそのバランスを破り、相手の本心を知って対策を考え、その弱点を捉えてこれにつけ入れ、というのが「混水摸魚」の計である。

大橋武夫先生解説・和田武司氏訳「秘本兵法・三十六計」(徳間書店1981年)より---

「兵法は策である」という「誤解」が生まれるのは、「孫子」、第一篇(始計)に「兵は詭道なり」とあり、また「戦国策」や「三十六計」などが色々な奇策を並べ立てているためであろうが、「孫子」、第五篇(勢篇)に「戦いは、正を以て合し、奇を以て勝つ」とあり、正の努力の必要を説いているのを見落してはならない。また「戦わずして勝つ」ためには「戦ったら勝つ」だけの実力を持ち、それをいつでも効果的に発動できる準備を十分にしておかねばならない。このことに気づかず、ただあれこれと策をめぐらすことだけで勝てると思うから、策士策に溺れることになる。兵法はむしろ「合理性」を追求するものである。なんとなれば、仕事というものは、ただ努力さえすれば成功するというものではない。相手のある仕事、とくに組織を率いてこれに挑戦する場合には、ある種の「法則」すなわち「兵法の理」にかなった行動をとることが必要で、これを無視した努力はいかに熱心に推進しても「労多くして功少なし」の嘆を招くことになる。

-- 大橋武夫先生「兵法経営塾」(マネジメント社1984年)より --

兵法の原点は優勝劣敗である

兵法の原点は優勝劣敗である。このため双方の力関係が大きく開く場合には力で押えればよいが、力関係が拮抗してくると相手の弱点を捕えなければ勝てない。そこで相手に隙を出すように仕向ける。あるいは相手の盲点を看破する、できれば錯覚をおこさせるのである。こうして現れた相手の弱点を”虚”という。この虚を衝くのを『虚実兵法』という。古来より「虚実」を重視して、兵法は虚実に尽きるといわれて来た。しかし、相手もその点は百も承知で、様々な策を仕掛けてくる。したがってその上をゆく計略でなければならない。そのためには相手の心理をよく読み、その裏をかく計略を考えることが必要である。吉林人民公社版「三十六計」の訳註者・無谷氏は「戦争の策略は変幻自在で意外な詐術、料りがたい陰謀に満ちており、たやすくつかめない。故に、まず状況を察する必要がある。状況が明らかでない場合、怪しいとの意識をもって威力偵察などでその実態を明らかにすべきである。」「漫然と不用意な計略を立てれば、計謀はたちまち見透かされ、疑惑と不信をまねき、せっかくの奇謀も裏をかかれる」と厳重に注意を要すると戒めた上で「重要なことは、心を攻め、気を奪い、その勢いを消すことである」と述べている。

-- 武岡淳彦先生監修・解説「まんが・兵法三十六計」(集英社 1998年)より --

「マキャベリ」

■人間は眼前の獲物にだけ注意を奪われて、鷹や鷲が頭上から襲いかかろうとしていることに気付かない。■人間は完全な善人にも、完全な悪人にもなりきれずに破滅する。■誰でも誤りを犯そうと思って誤りを犯すわけではない、ただ、晴天の日に、翌日は雨が降るとは考えないだけである。■人間は同じことを繰り返し見せ付けられるか、聞かされると真実と錯覚する。■人は外見で判断し、中味を気にしない。■人は次善の策の欠点を嫌うあまり、最悪の策をとる。■人間は大局(重要なこと)は誤りやすく、身近な問題は誤らない。■人間が動かされるのは、意外に低級な感情である。■人間はその心中に巣くう嫉妬心によって、誉めるよりも貶すことを好むものである。-- マキャベリ --

「孫子」

●将に五危あり、必死は殺され、必生は虜にされ、忿速は侮られ、廉潔は辱しめられ、愛民は煩される。およそこの五の者は将の過ちなり。用兵の災いなり。軍を覆し将を殺すこと、必ず五危を以てす。察せざるべからず。---(すぐムキになって走る。決断力がない。すぐカーッとなる。体面を気にしすぎる。必要以上に情深い。)-- 孫子 --

「大江匡房」

●孫子は詫譎「きけつ」(いつわり、あざむく)の書である。●孫子は懼字「くじ」(敵を恐れる)なり。●兵法の本来は戦いにある。●用兵の極意は虚無(孫子の詭譎)にあらざるなり。●兵法の本来は戦いにある。●兵の本来は国の禍患を絶つにあり。●未だ謀士の骨を残すを見ず。-- 「闘戦経」(大江匡房)--



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